マイクロフトのこと(1)

今から7年ほど前のこと、下町の商店街の裏手にある駐車場に、二十頭近い猫が住みつき繁殖していました。当時相談を受けた保護猫カフェで全てを保護するのはとうてい無理な数で、避妊・去勢手術ができる年齢の猫は捕獲・手術後元の場所に返すTNR(Trap・Neuter・Release)が行われました。

その中に、右前脚をつくことができず、3本脚でひょこひょこ歩いていた茶白のちいさな猫がいました。他の猫たちはリリースされましたが、このねこだけは治療が必要だったので、TNRを行っていた保護猫カフェでそのまま保護されました。幸い脚はただの怪我ですぐに完治し、茶白のちいさな猫はテムズという名前をもらって、猫カフェスタッフとして里親を待つことになりました。

「テムズ里親募集を開始しました」という写真を見て運命を感じた夫婦がおりました。って、うちのことなんですけどね。当初はテムズだけを迎えようとしていたのですが、猫カフェオーナーに絶対2頭いたほうがいいとゴリ押しされ、多頭崩壊からレスキューされた少し大きな黒白の猫と一緒に迎えることを決めました。

茶白君は痩せて神経質そうな顔立ちがベネディクト・カンバーバッチ様に似ていたので、「シャーロック」と名付けました。黒白君はシャーロックの相棒なので、ワトソンのファーストネームをとって「ジョン」になりました。ジョンはもともと人間に可愛がられていたので最初から甘え上手でしたが、シャーロックは人が触ろうとすると逃げるねこでした。

到着した日のねこたち。

それから7年が経ちました。家に来た時は不安でぴったり寄り添っていた2頭も、今は暑ければ離れて寒ければくっついて、時には猫パンチの応酬をしながら仲良く暮らしています。ジョンは相変わらず甘えん坊です。シャーロックは人見知りが激しいですが、1年ぐらい前から急に飼い主につきまとうようになり、必ず一緒に寝るようになりました。

一方、7年前にシャーロックと同じ場所で捕獲され、元に戻され地域猫となった猫達はどんどん姿を消していき、今や茶トラとミケの2頭を残すだけとなっていました。ミケは触れるぐらいには人馴れしていて近所の人にもかわいがられていましたが、茶トラはどこか人とは一線を引いているところがある子でした。2頭は餌やりさんの家の前に毎日朝晩ごはんをもらいに来ていました。

茶トラは「チャコ」、ミケは「チビ」と呼ばれていました

ところがある日、どこからか未去勢の雄猫がやってきて、2頭のごはんを横取りするようになったのです。人付き合いだけでなく猫付き合いも上手なミケは雄猫とも仲良くできましたが、茶トラは姿を消してしまいました。

この茶トラはシャーロックの1世代上のきょうだいだという話を猫カフェのオーナーから聞かされ、どうしても気になりました。とはいえ、うちはマンションの規約で2頭が上限なので迎えることはできません。猫カフェに置いてもらい里親を探すにしても、7年間の外暮らしの間に猫エイズキャリアになっていたら大部屋には入れず、そうなると預かりも自分でできないのに「保護したい」と言うのは無責任では……とぐるぐるしていました。

シャーロックの兄だからマイクロフト。名前まで勝手に決めてうだうだ悩んでいた私の背中を押してくれたのはやはりオーナーでした。「ひとまず捕獲して検査して、エイズキャリアじゃなければそのままスタッフデビューして里親募集、感染してたらその時考えよう」と言ってもらい、新参♂を去勢のため捕獲・保護した後またごはんをもらいにくるようになった茶トラ・マイクロフトに顔を覚えてもらいに、餌やりさん家詣でが始まりました。

その2に続く

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