妄想物語 シャーロック編
(くんくん、くんくん)
おいしそうなにおいがする。
あった!ぼくの!ぼくがみつけたごはん!
(…ぱたん)
あれ。
あれ。
でられない。どうして?
おじさん!おじさん!たすけて!
…にゃぉーん…にゃぁお、にゃぁおー…にゃぁ…
おじさんにいわれてたのに。
しらないにんげんがくれるたべものはあぶないって。
いつものにんげんがくれるおさかなたべてればだいじょうぶって。
でもね、おじさん、ぼくをまってるせいで、あんまりごはんたべてないのしってたんだ。
だから、ぼくみつけたごはん、おじさんにもっていってあげようとおもったの。
なのに、でられないよ。
…ごめんなさい。
なんだよ。
なんだよ。
ぼくのねどこ、ここなのに。どこにつれていくの!
いやだ。
いやだ。
いーやーだー!
にゃあぉおおおん!
==
「気になってた3本脚の子、捕獲できました。脚はどうでしょう?」
「あー。これは、傷かなあ…ひどく化膿してますね。とりあえず抗生剤を…」
いたいよ!やめてー!
「体重2.7㎏。熱は…ないですね。あずかります」
(ぱたん)
ぼく、どうなっちゃうんだろう。
==
「手術は無事終わりました」
「あらー。素敵な耳カット♪」
「前脚なんですが、骨には異常はないようです。傷が痛いんでしょう。治療すれば4本脚で歩けるようになると思いますが、リリースしてしまうとおそらくこのままかと」
「怪我したままではリリースできないですね。しばらく保護するしかないですね」
ぼく、みんなのところにかえれるんじゃなかったの?
おじさんやおにいちゃんとまたあえるんじゃなかったの?
ここ、どこ?
にゃぅん…。
==
あめのおとがする。
ぼくのきらいなあめ。つめたくて、さむい、あめ。
あれ?でも、ぼく、ぬれてない。
つめたくない。
…どうして?
==
おみずのみたいな、とおもったときに、おみずをさがしにいかなくてもいい。
おなかがすいたらおさらのなかのかりかりをたべれば、おなかがいっぱいになる。
ちょっとあついけど、でもあめのおとがしてもぬれない。
おじさん、どこいっちゃったんだろう。
おじさん、ぼくがたべるまでまたなくても、ここにいればおなかいっぱいなのに。
……みぎて、いたくないね。
==
ぼくにおとうとができたみたい。
しろくて、しっぽとあたまのてっぺんだけくろくて、ちびっちゃいの。
ぼくにごはんをくれるにんげんがつれてくる。
でも、ねておきて、ねておきて、ねておきたら、
にんげんがどこかにつれていっちゃう。
さびしいな。
===
おなかがすいたよう、ってなくと、ごはんをくれるのは、おかーさんだった。
ぼく、わすれてたよ。
いま、ぼくにごはんをくれるのはにんげん。
にんげんだけど、ごはんくれるから、おかーさん。
おかーさんのて、くすぐったいよ。
でもね、あったかい。
===
おかーさんにだっこされた。
ねどこにかえるのかな。
でも、ぼく、おかーさんのそばのほうがいいかもしれない。
…ねこいっぱい。
でも、ぼくがしってるねこ、いない…
ここどこ。
(かしゃん)
…おかーさん、ぼくここにいればいいの?
====
「この子がね、テムズ」
「わー、案外小さいんですね」
「そうなのよー2.7㎏しかないの。もう少し大きくしたいんだけど」
「さわっても大丈夫?」
「だっこ平気よー。出しましょうか?」
おかーさん、だっこ…じゃない?
だれ?このにんげんだれ?
ぼくかえる!ぼくのおうちかえる!
「あれー、じたばたあばれてますよ。帰りたいみたい」
「あらら」
「戻しますね」
やだ!こいつやだ!ここからぜったいでない!
「なんか、トイレに座り込んでますよ」
「ねこ部屋デビュー直後はよくいるのよー、トイレの王子様」
なにたのしそうにわらってるんだよう。むー。
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いつのまにか、ねこいっぱいのばしょ、いけるようになってた。
おにいちゃんもおねえちゃんもおこったりけんかしたりしない。みんなやさしい。
あったかいしおなかはすかないし、ぬれないし。
ときどきおかーさんがしろいなにかをもっておいかけてくるのはちょっといや。
だってつかまると、しろいふくのおじさんがぼくをおさえつけてちっくんするの。
あと、ときどき、しらないにんげんがくる。
おもちゃをぶんぶんふってるから、ついおいかけちゃう。
そいつ、ぼくをさわりたがるんだ。もう!やめてよ。
ここにも、あたらしいおじさんがいたよ。
ごはんはおかーさんがくれるから、このおじさんはごはんくれないけど。
でも、ぼく、やっぱりおじさんのよこがおちつくんだ…。
おとうとも、いつのまにか、おなじへやにいたよ。
ぼく、ずっとここにいてもいいのかな。
===
おかーさんは、いそがしそうだ。
おへやのなかのおにいちゃんたちも、なんだかいらいらしてる。
くろしろのおおきいねこがいっぱいきたよ。
ぼくのちいさいおへや、とられちゃった。
===
おかーさん、どこいくの。ぼく、もうねむいんだけど…。
「こんばんはー」
「あ。ちょっと出るのいやがってるかなー。よいしょ」
「あー2ひき寄り添ってる~」
「落ち着いてますね」
「じゃあ、何かあったらいつでも、携帯に電話くださいね」
あれ。
おかーさん、どこいくの?
ぼくをおいていくの?
よこにいるくろしろのねこは、ぼくきらいじゃないけど、まだあんまりよくしらないんだ…
「まだ緊張してるのかな」
「そっとしといたほうがいいね」
「おやすみ」