妄想物語 ジョン編
みー。みー。おなかすいたー。おかあさんいないー。どこいったのー。
「あれー。かあさんや、また誰かが置いて行ったよ、子ねこ4匹」
「またですか。…ああ、また、黒白の…あそこの角の家の子だと思うんだけどねえ」
「もう、うちも6匹もいて手一杯だろう。返しに行くかい?」
「きっと知らないっていうだろうし、もし『すみませんねえ』なんて言ったって次は別のところに捨てるよ。うちの前に置いていくような人たちなんだから」
「じゃあどうするんだい」
「うちで面倒みるしかないよー。放っておいたら死んじゃうよ」
「そうだなあ」
「そうやって、うちに連れて来ればなんとかしてくれるって思うから連れてくるんだろうけどねえ」
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かあちゃん、どこいくの?このはこ、くらいよ。こわいよ。
「とらちゃん。ここにはね、もう、住めなくなっちゃったんだよ。新しいおうちに。車で運んでもらうから、少しだけ、いい子で箱に入っててね」
かあちゃんもいっしょ?
「とらちゃんたちはだいじな家族だからね。とうちゃんとかあちゃんと、兄弟10匹みんな、一緒だよ」
そっか。じゃあ、いいこにしてるよ
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「おかあさん、この荷物どこにおろせばいいの」
「すみません、この住所のはずなんですけどねえ」
「はずったってさ、鍵もない誰もいないじゃ無理じゃないの。お金だってここで支払ってもらえるっていう話だったでしょう」
「すみません」
「まったくしょうがないなあ。おろせないんじゃしょうがないから、いったんこの荷物はうちで預かりますよ。いいですね」
「すみません」
「あー!猫はおろしますからね。まったく、ほんとはトラックに猫を積むのだってまずいんだよ…」
にゃー、にゃー
にゃぅ?
ぼくたち、どうなっちゃうの?
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はこからだしてもらえたけど、ちいさいへやにとじこめられちゃった。
にいちゃん、ここどこだろうね?
ここがあたらしいおうちなのかなあ。でも、かあちゃん、いないね。
うえからねえちゃんのこえがきこえてくる。ちかくにいるのかな。
あたらしいおうちになるはずだったところにはいれなくてかーちゃんがこまってたらここにつれてこられたのよ。あんた、おぼえてないの?
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「妹さんを頼ってここに来たけれど、家には入れてもらえなくて、住むところが決まらない、ということですか。とても申し上げにくいんですけど、今後あなたたちご夫婦のお住まいが決まっても、今のまま猫たちを飼い続けることは難しいと思いますし、猫たちにとっても決して幸せではないと思うんです。10頭のうち、こちらでお預かりしている8頭については、うちで里親を探させていただけませんか」
「わしは、その方がええと思うよ。この人にお願いすれば、猫たちもそれぞれいじめたり捨てたりせん人のところに行ける。元々、うちの前に置いて行かれるのを返したら捨てられてしまうから、あんたも無理してうちの子にしてたんだろう」
「…そうだねえ」
「はい、よろしくお願いします」
「ではこちらの書類にお名前を書いてください。明日から、医療措置のために順番に病院に連れて行きますが、付き添っていただけますか?」
「それはもちろん、よろしくお願いします」
「ところで、この子たち、白いところが少し黄色いんですが、これは?」
「そうですかねえ…?ああ、うち、ガスも電気もなかったので、たき火で炊事してたんですわ。そのせいかもしれません」
「…燻製?」
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あ!かーちゃんだ!かーちゃんだ!
だっこして!ここせまいよう!おそとだして!
にゃぁああ、にゃぁあ!
「とらちゃんやー元気だったかい?」
にゃぁああ、にゃぁあ!
「今日はね、びょういん、てとこに行くんだよ。かあちゃんも一緒にいくからね」
…にゃあぁ?
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このしろいふくのおじさんだれ!かあちゃんどこいくの!
「じゃあ、おあずかりします」
「よろしくおねがいします」
…にいちゃん、ぼくたちどうなるんだろう。
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ちいさいへやにかえってきた。
ぼくは「⑤ばん」とか「アーチー」とかよばれてる。
ときどき、へやをみにくるひとがいる。
かーちゃんはいつのまにかいなくなっちゃった。
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「写真みてぴぴっときた子って、どの子?」
「うーん…これだっ」
な、なんだよういきなり。
「⑤ばんアーチーね。黒白兄弟の中では、わりとおとなしめの子かな」
「よし、アーチー、おまえはうちの子だ」
うちのこ?
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…ねこ、いっぱい。
うちもねこいっぱいだったけど、もっとたくさんいる。
くろとしろだけじゃない、ほかのいろのねこもいる。
うー。おそと、こわくてでれない。
「わ、黒白がいっぱい。アーチーはどこですか?」
「えーとね、あ、この子。もう、首輪が付いてないと見分けがつかなくてねー」
「たしかに、わからないですねー。この外に出てるちょっとひげがついてる子はわかるけど」
「あー、それがアルバートね。一番元気でやんちゃ」
「アーチー、出してみましょうか」
ちょ、ちょっと!なにするの!いやあああ!
ぼくかえる、おへやにかえる!
(がしゃがしゃ)
あれ?はいれないよ。はいれるすきま、どこ?
「ちょ、ちょっとぉ、ケージのすきま、あなた大きいから入れないって!」
「そんなに怖かったの。ごめんねー。お部屋帰ろうね」
なんだよこのおばさん。さいあく。
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かーちゃんのかわりにぼくたちにごはんをくれるひとが、ぼくをちゃいろとしろのちっこいねこのそばにおいた。
おみあい、っていうんだって。ふーん。
こいつ、なにかんがえてるのかよくわかんないけど、
でも、こわくないね。はじめてのあたらしいともだちになれるかな。
よろしく。
「一緒にお届けで大丈夫そうね~」
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はこよりちいさいいれものにいれられた。
ちゃいろとしろのちっこいのも、となりにいる。
ねむそうだ。
「こんばんはー」
「あ。ちょっと出るのいやがってるかなー。よいしょ」
「あー2ひき寄り添ってる~」
「落ち着いてますね」
「じゃあ、何かあったらいつでも、携帯に電話くださいね」
ここ、ぼくのおうちなのかな。
おにいちゃんもおねえちゃんもいなくなっちゃった。
かわりにちっこいのが、いっしょ。
これからは、ぼくが、こいつのおにいちゃんになるのかな。
「まだ緊張してるのかな」
「そっとしといたほうがいいね」
「おやすみ」
※写真はCats&Dogs Cafeのブログからお借りしています。